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論文「アスベスト分析の屈折率測定における分散染色法技術とその適用」のサマリー

更新日:3月6日

浸液を使用し偏光顕微鏡で試料をのぞいた様子

NVLAP技術専門家であり屈折率測定の専門家でもあるSu博士が、発表した論文「アスベスト分析の屈折率測定における分散染色法技術とその適用」の中で、アスベスト分析における分散染色法の有効性の検証にカーガイル社の浸液とEFAラボラトリーズが取り扱っているDRIMMC(ドリムク)浸液をつかって検証をおこなっています(DRIMMC(ドリムク)アスベスト分析用分散染色浸液の詳細ページはこちら)。このブログでは、このSu博士の論文の概要をご紹介したいと思います。

Su博士について

論文の著者であるSu博士は、 1988年から、NVLAPの固体試料中及び気中アスベスト分析プログラムの技術専門家として、アスベスト分析を行う分析機関に対して数多くのNVLAPの現地監査を行ってアスベスト分析に精通したエキスパートです。Su博士は研究と実務経験を通して、一般及び光学的鉱物学、記載岩石学、火成岩及び変成岩岩石学、地球化学、結晶化学、粉末及び単結晶X線結晶学、デジタル画像解析、偏光顕微鏡・走査電子顕微鏡・透過電子顕微鏡・赤外線分光分析・ラマン分光分析・共焦点レーザー走査顕微鏡などの様々な顕微鏡分析手法に通じる専門家です。

分散染色データからさまざまな波長における屈折率を得るという分析手法は「Su法」と呼ばれ、固体アスベスト分析に適用することにより、分散染色法を用いて迅速かつ正確にアスベスト繊維の屈折率を決定する標準的な手順を開発しました。多くの国際的な学会で地球科学、鉱物学、アスベストについて発表を行っており、特にアスベスト同定やアナリストのための分析の基礎に関する数多くの実用的な論文を発表しています。



論文「アスベスト分析の屈折率測定における分散染色法技術とその適用」の概要

この論文では、偏光顕微鏡(PLM)を用いたアスベスト分析における、分散染色法による屈折率測定について解説しています。 アメリカの環境保護庁(EPA)は、建材中のアスベスト含有量を分析するためのプロトコルを定めており、PLMを用いてアスベストの光学的特性(色、多色性、屈折率、複屈折、消光、伸長の符号)を測定することが求められます。 屈折率は、アスベストの種類を特定するための最も重要な光学的特性です。


米国では、「Asbestos Hazard Emergency Response Act (AHERA)」において、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、トレモライト・アスベスト、アクチノライト・アスベスト、アンソフィライト・アスベストの6種類を規制対象アスベストとして定義しています。また、地域の教育機関に対し、建築物のアスベスト含有建材の調査、建物管理計画の作成、アスベスト暴露防止または低減のための建物対応措置の実施を義務付けています。建材のアスベスト分析には、偏光顕微鏡を使用した方法が指定(※1)されており、色彩、多色性、屈折率、複屈折、消光角、伸長の符号の6つの光学特性によって、バルク試料中のアスベスト鉱物を特定します。

米国商務省国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)が管理する自主試験所認定プログラム(National Voluntary Laboratory Accreditation Program:NVLAP)(※2)では、日常的なバルクアスベストサンプル分析において、浸液法によるアスベスト繊維の屈折率αおよびγの測定が必要とされています。一般的に、クリソタイル、アモサイト、トレモライト、アクチノライト、アンソフィライトで0.005以下、クロシドライトで0.010以下の精度が求められています。


分散染色法と個体の屈折率

分散染色法とは、特殊な対物レンズを用いて、固体とそれを囲む液体の屈折率の一致度を評価する手法です。 固体と液体の屈折率が一致する波長を「一致波長(λm)」と呼び、この波長をフィルターで除去(セントラルストップモード)または透過(環状ストップモード)することで、屈折率の一致度を定量的に評価することができます。 分散染色法には、この2つのモードがあり、セントラルストップ型の方が一致波長の評価精度が高いため、アスベスト分析に適しています。


固体の屈折率は、液体の屈折率、固体と液体の分散係数の差、および一致波長によって一意に決定されます。 アスベストの分散係数([nF–nC])は、その元素組成と結晶構造によって決まり、同じ種類のアスベストであれば、産地が異なっても比較的安定しています。 したがって、観察された一致波長(λm)温度から、アスベストの屈折率を迅速かつ正確に求めることができます。

手順

実体顕微鏡でサンプルを観察し、アスベストの種類を予備的に特定します。 次に、偏光顕微鏡を適切に調整し(対物レンズのセンタリング、コンデンサーの調整、偏光子と検光子の方向の確認)、サンプルを適切な屈折率の浸液に浸します。 そして、中心絞り型分散染色法を用いて、アスベストのγとαの分散染色の色を観察し、対応する一致波長(λm)とその温度から、アスベストの屈折率γとαの数値を求めます。

温度補正

分析精度を確保するには、使用する浸液が正しい屈折率を保持していることを確認する必要があります。浸液の較正は、アッベ屈折計を用いた場合のみ正確に行うことができます。しかし、アッベ屈折計が利用できない場合、実用的な代替手段として、カーガイル社の屈折率標準ガラス(※3)のような正確で精密な屈折率を有する光学ガラスを用いることもできます。屈折率標準ガラスは、温度による屈折率の変化が既知であるため、分散染色法で測定した一致波長から、測定温度における屈折率液の屈折率を正確に求めることができます。この論文にはカーガイル社とDRIMMC(ドリムク)社の浸液の両方に対応する変換早見表を掲載しています。

DRIMMCの浸液

アスベスト分析に用いられる浸液には、カーガイルとDRIMMCの2つの主要ブランドがあります。DRIMMCの浸液は、カーガイル社よりも分散係数が平均14.8%高いという特徴が確認されました。これは、分散係数が高いほど、鮮やかで明確な分散染色の色が得られ、一致波長の評価精度が高くなるため、DRIMMCの浸液はアスベスト分析に適していると言えます。

そして、よく使用される1.550のオイルには、DRIMMCはHD-SとHD-Lの2つのシリーズがあり、どちらもほぼ同じ分散係数を持っています。また、HD-Sシリーズ(※4)の1.550は、画期的な配合によって、従来の浸液の典型的な悪臭を持たないだけでなく、心地よいアロマを保ち日常の分析から苦痛をとりのぞく(原文ではmaking it enjoyable)ことに成功している。


まとめ

分散染色法は、偏光顕微鏡を用いたアスベスト分析において、屈折率を測定するための効果的な手法です。 この手法は、迅速、正確、かつ比較的安価であるため、アスベスト分析の現場で広く利用されています。 また、分散染色法は、アスベスト以外の鉱物や繊維状物質の分析にも応用できるため、幅広い分野で活用が期待されています。


注釈

※1 偏光顕微鏡を使用したバルクアスベスト分析規格「EPA/600/R-93/116」のこと。 EFAラボラトリーズは2007年から EPA/600/R-93/116 によるアスベスト分析サービスを提供しておりました。EPA/600/R-93/116は、ISO 22262-1に参照された主要な分析規格の一つ。ISO 22262-1が和訳された規格がJIS A 1481-1。

※2 NVLAPでは、分析品質マネジメントシステムと試験所の校正能力に関する技術的要求事項を満たしていることを示す必要があり、アスベスト建材分析のNVLAP認証を維持するためには、アスベスト分析に精通した技術専門家による監査がある。監査では、適切に分析知識と技術を有しているかと精度管理ができているかのテクニカルな監査がある。

※3 EFAラボラトリーズも屈折率標準ガラスを用いて定期的に浸液の屈折率を確認しています。屈折率標準ガラスのお問合せもあるため、輸入販売をしておりますので、ご希望があればお声がけください。

※4 日本未発売です。ご興味のある方はお問合せください。



DRIMMC(ドリムク)浸液のご案内


Su博士は論文の中で、「DRIMMC浸液は分散係数が高い (鮮やかで明確な分散染色の色が得られる)」と述べています。この記事を読んでDRIMMC(ドリムク)の浸液に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、評価用の無料トライアルサンプルがありますので、是非お問合せください。

また、「浸液って管理方法があるの?」というご質問をいただくことがあるため、浸液の適切な品質管理についての講座を作成しました。受講希望の方がいらっしゃいましたら、不定期開催となりますのでメールか電話でお問合せください。受講された方には、論文のなかで紹介されている屈折率標準ガラスと浸液の屈折率変換早見表をご提供いたします(Su博士に許可をいただきました)。




論文情報

原題:The Dispersion Staining Technique and its Application to Measuring Refractive Indices of Non-Opaque Materials – With Emphasis on Asbestos Analysis

著者:Dr. Shu-Chun Su(Technical Expert, National Voluntary Laboratory Accreditation Program)

キーワード:分散染色、屈折率、浸液法、偏光顕微鏡法、浸液、浸液の較正、カーガイル、DRIMMC、変換早見表


DRIMMC浸液 及び 講座についてのお問合せ先

株式会社EFAラボラトリーズ 営業部 浸液担当 宛 TEL: 03-3263-6055



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